新しい土地を探そう

お客様のリクエストの中でよく聞かれることがあります。
「何年か前に○○でこんなワインを飲んだのですが、同じワインがありますか?」
そうすると、いつもいろいろなことが頭をよぎります。
「お探しいたしますが、同じワインを見つけることは難しいでしょう」

お客様の立場から言うとラベルに表記してあるワイン名、ヴィンテージを探し当て、お届けして、いい食事とともに試して頂く。
そうしても、お客様の満足は100%得ることはあまりありませんでした。
あの時とは味が違うなあ、となることが多いです。
同じワインでありながら、なぜこうなるのでしょうか。
ワインは表記してある収穫年の違いにより味わいの違いがあることは誰にでも容易に想像ができます。
年によって天候が違う、造る人も息子に代替わり、畑の売却などで変わります。
人が変わると、造るポリシーや方法論、設備、投資などの考え方も変わります。
同じヴィンテージでもワインは瓶の中でも熟成が進んでいますから、人間もそうですが年代なりの味が出てきます。流通過程の保存状態によっても変わります。
まるで人間の一生のようです。それぞれのワインにとって開ける瞬間の状態がそのワインにとってベストな飲み頃なのかどうか、開けてみるまではわかりません。一期一会ですね。
私もよく、そろそろ飲み頃だと判断してコルクを開けると実はまだまだ若くて、熟成のピークはまだまだ先だった、またはピークが超えていた、ということもよくあります。

また、あるいはフランス、イタリア、スペインなどの銘醸地で過去に出会った味わいの感覚を違う国で出会うこともありました。
そんなときになぜこの土地でこの味が作りだされたかという素朴な疑問が出てくるわけです。
歴史、土地、文化、人の思いをさかのぼっていくと答えに出会うことがあります。
近年は価格が高騰する旧世界の銘醸地の味を新しい土地で再現しようとする方々がたくさん出てきました。
やはり、そんなときも、上手く造ったなあ、とか、おしかったなあ、とか様々な思いがよぎります。
そんな中で世界は日々変わっています。
ヨーロッパの西側、フランス、イタリア、ドイツ、スペインでは天候の急変により、昔買っていたワインが買えなくなり、新しい原産統制呼称のワインが見られるようになりました。ヨーロッパの東側では1991年以降社会主義の崩壊でこれまでになかったワインが作られるようになり、温暖化を利用して、ぶどうができそうになかった寒冷地でワインが作られだしました。南アフリカではフランスワインの味わいを見事に表現する生産者が出てきました。アルゼンチンでは国内向けにしか作っていなかったワインが国際的に受け入れられる味わいに変わってきました。
昔うまいワインを飲んだ忘れられない思い出はそのまま残っているのですが、周りは変化し続けています。
常に新しいものを探し続けています。そしてお届けしたワインが忘れられない思い出になれば幸いです。